暗い部屋
「……」
 暗い部屋で、独り。
 藍晶石に連れられて蘭が出て行った。呼んだのは藍晶石の方で、追い出したのは自分だった。なおも渋る蘭を更に撥ね付けたのも自分だ。私が蘭を追い出した。そんなことは分かっている。
(……もう)
 どんどん道を誤っているみたいだ。間違えたところまで戻れる気もしない。日を追うごとに苦痛が増している。辛い、辛い。実家でそうだったように、耳を塞いで、目を閉じて、日の差さないところで蟲といるのが一番の安息だった。

 何かを欲しいと思った代償は、こんなに大きかった。
 失うものなど無くなって、私の望みは脆くも崩れ落ちる。眩しくて手の届かないあの人との接点が持てるはずも無い。私は何も手に入れてないのに、失うばかりが先立って。
(こんな)
 こんな世界が。あの家が。…私のようなものを生むから、こんなに世界を汚す。調和を乱す。不快を生む。美しい世界や優しい人を、傷つけたいわけじゃない。でも私はこの身に死を飼っていて、私が意図せずともそれは誰かにもたらされるかもしれない。
 太陽は嫌い。人は怖い。命も怖い。大丈夫だと確信できるものだけ側に置ける。でも側に置けるからといって、ずっと側にいてくれるわけなんてなかった。

(もしも、こんな世界じゃなかったら)
 あんな家なんて無くて、あんな一族なんていなくて、こんな力なんて無い。
 そんな素敵な世界なら、どれほど幸せだろう。

 安息の部屋で独り、ベッドの上で丸くなった。

2012/05/27